またATMが並んでいるのかと思ったが、ぱっと見入り口付近は普通。ロボットの女の子がニコニコしながら出迎えてくれた。
 彼女に従って店内に足を踏み入れた途端、やはり普通じゃないことを悟る。屋内なのに各席の上には傘のような白いドーム状の屋根がついているのだ。
 窓際の席に案内され、手を離して向かい合わせの椅子に座ると、リズがホッと一息ついた。どんだけ緊張してたんだよ。

「そちらからご注文をお願いします」

 ロボットのウェイトレスは机の端にある機械を指し示して席を離れていった。
 なるほど。注文マシンは各席に設置されているらしい。
 画面の案内に従ってサービス券を機械に差し込み、リズと一緒に注文をすませる。
 用事が済んだオレは上を見上げて問いかけた。

「この屋根、なに?」
「個人識別チップの認証装置よ」
「あぁ、決済の」

 クランベールに貨幣はない。通貨は電子化されているので、実体がない。国民の証であるイヤーカフには登録された銀行口座で、その電子化された通貨を取引できる機能があるのだ。

 隣の席を見るとカップと一緒に黒い板状の生体認証装置が運ばれている。
 客が黒い板の上に手のひらをかざし、ピッと小さな電子音が鳴ると、それと連動するように頭上の白いドームが一瞬緑色に点滅した。一連の作業で本人認証と決済が終了するようだ。

 少しして先ほどの彼女が注文したハーブティーを持ってきた。リズとオレの前にそれぞれカップを置く。オレたちはサービス券があるので決済はしない。

「ありがとうございます。ごゆっくりとおくつろぎください」

 そう言って軽く頭を下げて、彼女は立ち去った。彼女を見送って、オレとリズは同時にカップを手に取る。甘い香りのするお茶を一口すすって、カップを置いた。
 地球で人間やってた頃には、ハーブティーなんて、小じゃれたものは飲んだこともなかったのだが、クランベールのお茶はハーブティーが主流のようだ。料理に使われる調味料もハーブが多く使われる。ハーブが好まれているのだろう。