バージュモデルを形成する数百に及ぶ独自技術のライセンスはすべて科学技術局が保有しているので、全く新たな技術で同等のものを開発するのは不可能に近い。
 ただ、バージュ博士は人格形成プログラムのソースコードを科学技術局にも公開していない。改修は必ず自分で行っていた。博士の死後、ソースコードが誰の手に渡ったのかはわかっていない。

 どこを探ってもソースコードの在処(ありか)は不明になっている。だが普通に考えれば、親しい身内がこっそり託されたりしてるんじゃないだろうか。
 バージュ博士には義理の両親と妹がいる。両親はバージュ博士が死亡したとき、すでに亡くなっていたが、妹は科学技術局に籍を置く科学者だった。
 ところが当時の事件記事にあるインタビューでは、妹はソースコードを託されていないことになっている。それは同居していた友人であるリズの大叔母も同様だった。本当なのかな?

「人格形成プログラムのソースコードって、どこにあるのか知らない?」
「ないんじゃない?」
「は? ないと困るんじゃないの?」
「別に致命的な問題でも生じない限り困らないでしょう? 実行形式のロードモジュールのマスタは科学技術局が保管してるんだし。実際にバージュ博士亡き後も困ってないみたいだし」
「そういうもんなの?」

 なんか、科学者ってもっと神経質なイメージがあるんだけど、案外大雑把なのかな。
 オレが少し呆れ気味に見つめていたからか、リズがフッと一息ついて、事情を説明した。

「バージュ博士が言ってたの。今の人格形成プログラムでは悪人人格は排除されてるけど、ソースを改変すれば簡単に作れるんだって。それもまた人間らしさだと言えば否定はできないけど、自分の分身たちが悪に染まるのは悲しいから、ソースは公開しないって」
「なるほどね」