オレが相手にしている違法ロボットは、基本的に廃棄処分されたものを違法に取得した犯罪者が、修理改造して再利用しているらしい。

 バージュモデルは主と他界した場合を除き、基本的に人格と記憶はリセットされない。仕事をしていた経験年数分の知識データが蓄積されていて賢くなっているからだ。同じ仕事をさせるなら新品を一から教育するより遙かに効率がいい。
 ただ以前の主の妙なクセや記憶も残っているので、購入者によってはリセットを希望する人もいるらしい。

「バージュモデルの中古品なんて面倒くさいもの盗んでどうするんだろう」
「さぁ、私ならたくさんいるだけで嬉しいけど、何かヤバイ記憶でも探してるんじゃないかしら?」
「ヤバイ記憶?」
「盗まれたロボットは数日後にその辺に放置された状態で発見されてるのよ。ボディには何も損傷がないけど、記憶領域と人格が破壊されてるの」
「え、それって……」
「そう。カベルネから盗まれたロボットと同じよ」

 そういえば、誘拐っていうか盗難に遭いかけた伯爵家の令嬢もバージュモデルだった。

 なんか関係あるのかな?

「その一連の事件データってオレも見ていい?」
「警察局の捜査関係者にはオープンになってるから、私のマシン経由なら可能よ」
「じゃあ、許可して」
「えぇ。シーナ、私のコンピュータにアクセスを許可するわ」


 マスターの命令受理。
 利用者レグリーズ=クリネのコンピュータへアクセス権限取得。
 権限使用期間二十四時間に限定。


 許可命令を受けてリズのコンピュータへのネットワーク回線が接続可能になる。
 人工知能が発した命令受理のメッセージを、オレの言葉に置き換えてリズに礼を述べた。

「ありがとう」

 初めて閲覧する警察局の捜査データは、常にめまぐるしく書き換えられたり追加されたり忙しく姿を変えている。
 国立図書館の蔵書データのように、ほとんど動かないデータしか見たことのなかったオレは、ぐるぐると動き続けるデータにちょっと酔いそうになった。

 人間の感覚だとマジで目が回りそうなのだ。

「うっわ……」
「どうしたの?」

 思わず声を上げると、リズが不思議そうにのぞき込んできた。

「動きの激しいデータで目が回る。気持ち悪い」
「吐かないでね」
「吐くわけねーだろ。ってか、吐くものないし」
「それもそうね」