そっか。お国の機関の不祥事だから、世間は大騒ぎなんだな。それはともかく、なんだろう。二課長の奥歯に物が挟まったような言い方は。
 オレは言われたとおり、近くにいたフェランドに尋ねた。

「風紀ってなんですか?」

 フェランドがニヤニヤ笑いながら答える。

「おまえとリズが密室にふたりきりでいると、仕事中でもイチャイチャするんじゃないかって勘繰ってるお偉いさんがいるんだよ」
「は? 起動したときからほとんどふたりきりで研究室にいますけど、なんで今頃になってそんな心配をされるんですか?」
「昨日、おまえのモニタリングデータは、オレたち特務捜査二課のメンバー以外に一般二課の担当チームと局のお偉いさんたちも見てたんだよ」
「え……」

 てことは、アレを見られたのか。でもオレの視点なのになんでそんなことわかるんだ。目、閉じてたのに。
 絶句したオレに、フェランドはニヤニヤしながら手招きする。顔を近づけると、こそこそと耳打ちされた。

「”目先のことにとらわれずに冷静になれよ”とか、かっこいいこと言いながら、いったいどんなキスしたんだ?」
「どんなって……」

 そっか、骨伝導でも音声は発してたから、モニタリングデータには反映されるんだな。でも色っぽい会話なんかしてないし、リズは大暴れしてたのに。
 それにゆうべのはともかく、あの時は……。

「いや、キスじゃなくて命令を阻止するために口をふさいだだけですよ。てか、なんでキスだと思われてるんですか?」

 にっこりと天使の微笑みで言い訳するオレを、フェランドはひじで小突きながら追及する。

「ごまかしても無駄だ。普通に考えてわかるだろう。おまえが目を開けた時にあんな近くにリズの顔があったら」
「え……」

 まぁ、そうかも。オレはひとつため息をついて尋ねた。