え、通信遮断されてたのに、モニタリングシステムは生きてたんだ。なんで?
 オレの疑問に答えるようにフェランドは続ける。

「警察局の通信網は業務の特性上特別回線になっています。一般の通信遮断措置では遮断できません。あなたはロボット法で禁止されている戦闘をロボットに命じ、うちの捜査員を監禁する意思があることを口にしていますよね」
「捜査員?」

 グリュデが訝しげに眉をひそめる。フェランドは平然と言い放った。

「シーナです。彼はただのロボットではありません。警察局特務捜査二課の正式な捜査員です。たったひとりしかいないロボット捜査員を壊されては、業務に多大な支障を来すので、やむなく強行突入させていただきました」

 グリュデは呆気にとられてポカンとする。オレも同様にポカンとなった。

 いや、オレもそれ今初めて聞いたんだけど、いつから正式な捜査員になってたんだ?

 少しの間、絶句していたグリュデは、やがて観念したようにフッと笑った。

「行くとしよう」

 フェランドの指示で二人の捜査員に身柄を確保されたグリュデは、素直に出入り口へ向かう。その時、目を開けたまま床に倒れていたヴァランが微かに口を開いた。
 こいつロボット用の銃に耐性があるのか。完全に機能を停止していない。

 唇は動かないまま、開いた口から途切れ途切れに音声が聞こえる。

「……きょ……くちょ……」

 ヴァランの声が聞こえたのか、グリュデが振り向いた。相変わらず無表情のまま冷ややかにヴァランを見つめる。

「めいれ……を……」

 グリュデはヴァランに向かって大きな声ではっきりと告げた。

「ヴァラン、命令だ。今この時をもって、私はおまえのマスター権限を放棄する」

 そしてヴァランに背を向け、返事も待たずに部屋を出ていく。

 グリュデの最後の命令が、ヴァランの望んだものだったかはわからない。けれど彼の口元が微かに笑ったように見えた。

「……かしこまり……まし……た」

 命令を受理して、ヴァランは動かなくなった。彼の開いたままの目から、涙が一筋こぼれた。