オレは一息ついてリズに尋ねる。

「で、どんな条件を出されたの?」

 潤んだ瞳で気まずそうに見上げながら、リズはおずおずと口を開いた。

「あなたを差し押さえるって」
「はぁ!? オレを売ったのか!?」
「違うの! 違法になってるライセンスの申請に許可が降りるまでの間だけ預けるの!」
「それにしたって、君の独断で勝手なことしたらマズいだろ。オレは警察局の所有物なんだから」

 リズは再びうつむき、涙声でつぶやく。

「警察局が所有してると違法なのよ。だからごめんね、シーナ。必ず近いうちに迎えに来るから、少しの間だけ私じゃなくグリュデさんに従って」

 あいつに従う? まさか……。

 おもむろに顔を上げたリズの頬を涙が伝った。精一杯の笑顔を作って、唇が最後の命令を告げようとする。

「シーナ、めいれ——」

 させるか!

 オレは拘束された両腕をのばし、リズの白衣の襟を掴んで引き寄せた。そして素早く彼女の口をふさぐ。自分の唇で。

「おやおや」

 グリュデのひやかすような声が聞こえたが、そんなものは無視だ。

 硬直していたリズがオレの腕を叩いたり引っ張ったりしながら大暴れを始める。

「んーっ! んーん! んんんんーっ! んーんーっ!」

 うるせーっ。絶対放すもんか。
 暴れるリズをさらに引き寄せ、骨伝導で音声を伝える。これならリズにしか聞こえないはずだ。

「ふざけんなよ。オレをあいつの奴隷にするつもりか? そんな命令させるもんか。目先のことにとらわれず冷静になれよ。オレの中は警察局の機密情報が満載なんだぞ。あいつがオレのマスターになったらそれを放置するわけないだろ?」