男は感情のない笑顔をたたえたまま軽く会釈した。

「私は科学技術局局長の秘書をしております、ヴァラン=ドローと申します」


 そしてオレに小さな金属製のクリップを差し出した。どうやら来客用の認証チップのようだ。

「それを身につけていてください。ここから先は部外者立ち入り禁止の区域になります。局専用機以外での無線通信も遮断されますのであらかじめご了承ください」

 てことはモニタリングシステムも役に立たなくなるのか。ヤバいことやってると色々隠さなきゃならないから大変だな。
 まぁ、データは全部記憶されてるからあとで取り出せるけど。

 オレが認証クリップを上着の襟につけるのを見届けて、ヴァランは先に立って促した。

「ご案内します。局長がお待ちです」
「リズは?」
「レグリーズさんなら、一緒にご歓談中です」

 そんな和やかなもんじゃねーだろ。

 オレが内心ツッコミを入れていると、ヴァランは思い出したように振り返った。

「あぁ、そうそう。これもつけておいてください」

 そう言いながらポケットから取り出したロボット用の手錠で、有無も言わせずオレの両腕を拘束する。

「この先はまだ研究途中の貴重なサンプルも多くあります。あなたに全力で暴れられては甚大な被害が及びますので」

 オレは拘束された手首の手錠を観察する。オレが生前目にしていた手錠のように、腕の間は鎖で繋がれてはいない。ちょうど八の字のように輪が二つくっついたような形だ。形は警察局の物と同じだが、強度は少し劣る。

「私は暴れるために来たわけではありませんが」
「上からの通達ですので、ご了承ください」