中のオレのことは元々消えるとは思っていなかったのか、リズはためらうこともなく淡々と作業を進めていく。オレの頭の中には、接続された端末がメモリ領域をチェックしながら吐き出すメッセージがバラバラと流れていた。今のところ問題はないようだ。
端末の画面を見つめながら、リズが唐突に尋ねた。
「ねぇ、昨日私が倒れる前に言った言葉、あれってニッポンの言葉?」
「え? 何言ったっけ」
チェックの隙間を縫ってメモリから記憶をピックアップする。
「あぁ、ドンマイ?」
「うん」
「元々は日本語じゃないけど、ドンマイはほとんど日本語だな」
「どういう意味なの?」
「気にするなって意味」
「そう。そういう意味だったのね」
リズは納得したように、何度も小さく頷いている。
そんなに感心するほど、クランベール人にしてみれば珍しい言葉だったのだろうか。オレにはそのリアクションの方が珍しかった。
やがてエラーチェックが終了し、異常なしのメッセージが表示された。リズはそれを確認して、オレの腰から電源ケーブルを引き抜く。そして横向きになったオレの顔を、自分も体を傾けて目線が合うようにのぞき込んだ。
「先にバッテリを交換するわね。交換直後は充電不足で強制的に省電力モードになるから、今のうちに痛覚センサを切っておいて」
「了解」
言われたとおり痛覚センサを切る。システムメッセージがリズの見つめる端末に表示され、それを確認したリズが、腰にあるケーブルの差し込み口に指を差し込んだのがわかった。
腰から背中に向かって皮膚が引っ張られるような感覚がある。おそらく皮膚をめくっているのだろう。センサを切ってるから痛みはないけど、なんか変な感じ。
腕の上に生温かい皮膚がペロンと載せられて、微妙に気持ち悪い。少しの間、工具の発する低いモーター音と共に背中に微かな振動があった後、リズは再びオレの顔をのぞき込んだ。
「じゃあ、バッテリを外すわね。少しの間、おやすみなさい、シーナ」
「うん。おやすみ」
唐突に視界が暗転し、オレはクランベールに来て初めて意識を失った。



