大きな道路の真ん中で、猫を抱えたオレはひとりポツンと立ち尽くす。

 すげー怖いんだけど。
 猫の内蔵した爆弾がどんな威力かはわからないけど、いくら強化ボディとはいえ、こんな近くで爆発したら無事ですまない気がする。

 時限装置が作動していないのも薄気味悪い。
 何か条件が設定されているんだろう。美術館がターゲットだったから、その敷地内に入ったら作動するとか?
 それならここから動かなければいいだけだが、熱に反応するとかだったら、オレがこうして抱いているのもやばい。なにしろ無駄に人間くさいボディだから、人の平熱程度の体温があるのだ。

 ずいぶんと長い間恐怖と戦っていた気がする。たぶん本当はそんなに時間は経っていない。待ちわびていた爆発物処理班が、通りの遙か彼方にできた捜査員のバリケードを通り抜けてこちらに走ってきた。

 こいつを引き渡したらオレの恐怖は終わる。そう思った矢先に、またしてもシステムメッセージが不穏な情報を伝えた。


 三時方向より照準器による赤外線感知。
 ターゲットとの距離12メートル。


 あいつか!? この忙しいときに!

「班長、照準器による赤外線感知しました。おそらくあいつです。車から出ないでください」
「どこだ?」
「三時方向、美術館の屋根です。ターゲットは……」
 可視化した赤外線をたどり、オレは背筋が凍ったような気がした。赤い筋はまっすぐにオレの抱いた猫の額を差している。

「こいつが狙われています! 来るな!」

 ほんの二メートルくらい先まで来ていた爆発物処理班に向かって叫びながら、オレは赤外線を遮るように猫を体の陰に隠して道路にうずくまった。