律子が返した答えは、至極あっさりとしたものだった。
「あせって答えだす必要ないんじゃない? 彼も待っててくれてるみたいだし。しばらく一緒にいれば自然と解かるんじゃないかな?」
「そっかな?」
「たまには休息も必要よ。人に甘えてみたっていいんじゃない?」
 律子の言葉が、まるで魔法の呪文の様に聞こえる。心の奥まで見透かされているようだ。けれど、それがかえって紅葉を安心させる。
「なんか、妬けちゃうな」
「――え?」
「あたしの可愛い紅葉をこんなに悩ませるなんて……会ってみたいなぁ、蒼太くんにさ」
 律子は少しおどけた感じで言った。
「今までは彼氏が出来ても、別れてもぜーんぶ事後報告だったくせに!!」
「あはは。そう言われればそうだ」
「らしくないよ」
「うん。らしくない」
 紅葉も律子に同意する。
 そうだ、これからどうなるかなんてわからないのだ。今からあれこれ悩んでどうする。

『なるようになるさ』

 ずっと、そう思ってやってきたじゃないか。
「それにね、紅葉」
「ん?」
「一緒にいて居心地のいい人なんてね、そうそう出会えるもんじゃないよ?」
 律子の言葉が胸に響く。
『蒼太……』
 優しい光をたたえた黒い瞳を思い出す。
『一緒にいたい――』
 自分が何故ここから動けずにいるか……全ては、そう思ったからだ。
 自分に語りかける、低い、でもあたたかいトーンの声。ときおり見せる、柔らかな微笑み。
 蒼太といると訪れる、今まで感じたことのない、穏やかな気持ち……沈黙さえも心地良い程の……
 それら全てが自分を引き留めるのだ。
「あせらずに、大事にしなよ。ね」
「うん」
 律子の言葉に、紅葉は小さく頷いた。