――ドン!ドン!ドン!

『誰だ……朝っぱちから』
 玄関のドアを叩く音で紅葉は起こされた。
 眠い目をこすりながら体を起こそうとして、自分が布団に寝ていたことに気付く。
『しまった……また子供扱いされるよ』
 昨夜あのまま眠りこんだ自分を、蒼太が寝かせてくれたのだ。
「あ……」
 さらに部屋を見回した紅葉は、寝ていたのが居間でないことに気がついた。
『仕事が早いねぇ、蒼太くんは』
 ゴミ箱に例のUVカットフィルムの切れ端らしきものが覗いている。
 窓には、隙間が出来ないようにだろう、丈の長い深い藍色の遮光カーテンがかけられていた。
 光が差し込まないため、部屋の中は暗かったが、紅葉にとっては最適な環境だ。

 ――ドン!ドン!ドン!

 再びドアを叩く音がした。
「蒼太? 誰かきたよ~?」
 ふすまを開けて居間に顔をだしたが、蒼太の姿はない。
 浴室の方で水が流れる音がする。
『顔でも洗ってるのかな?』
 紅葉はしぶしぶバッグから薄く色の入った眼鏡をとりだして玄関へ向かった。
 朝の日差しは紅葉にとっては強敵だったが、こんな早朝に蒼太を訪ねて来る客の存在にちょっと好奇心もくすぐられる。
 ドアを少し開け覗くと、隙間の下のほうに小さな運動靴が見えた。
『子供?』
 ドアを大きく開く。
「うわわ……っ」
 ドアの前には、びっくり顔をした少年がひとり。
 真っ黒な短い髪に、健康的によく焼けた肌に大きく見開かれた印象的な黒い瞳。その顔立ちには少しばかり見覚えがある。
『どっかで見た様な……?』