静かな山奥で生まれ育ったせいかもしれない。他人に静かな生活を乱されるのを蒼太は好まなかった。

 ――なのに、一緒にいたいと思ってしまった……

 すぐ自分のそばで、今、静かに眠る彼女。
 誰かが側にいるのに、こんなに静かで暖かい気持ちを覚えるのは、蒼太にとっては、初めてのことだ。
 どうしてこんな気持ちになるのか、不思議でたまらない。
 彼女のことは何も知らないのに……

 ずいぶん長いこと、パソコンとにらみあった甲斐あって、だいぶアルビノのことが解ってきた。
 どうやって対応したらよいかも実際のアルビノの人のブログなどを見て色々参考になった。
 びっくりしたのは、意外なことに、他にもアルビノの人が実在していること。
 それも一人や二人ではない。何でも、二万人に一人くらいの割合で生まれるらしい。
 世の中にはまだ、知らないことがたくさんある。実際彼女と出会わなければ、知ろうともしなかっただろう……
 調べものを終えて、一息つくと、蒼太は軽く空腹感を覚えた。
 もう夕方近く、そういえば、今日はまだ何も食べていない。
 紅葉はぐっすり眠っていて、まだ起きる気配はない。よっぽど疲れていたんだろう……
 冷蔵庫を覗くとあまり食材はなかった。
『買い出しに行かなくては……』
 料理は得意なほうだ。
『目が覚めたら何か一緒にたべよう。口にあうと良いけど』
 蒼太は、さっと身支度をすると部屋を出る前にもう一度振り返って紅葉のほうを見た。
『それに……』
 戻ってきて、紅葉が起きたら。今、考えていることを彼女に伝えよう。うまく言えるといいけれど。

『だから、黙っていなくならないでくださいね』

 心のなかでそっと呟いて、蒼太は部屋を出た。