目を覚まして蒼太は驚いた。


 すぐ目の前に紅葉の寝顔がある。
『なんで……』
 目を白黒させて頭を抱え、確か隣の部屋に布団をひいて案内したはずだと、昨夜のことを懸命に思い出す。
 しかし昨夜は結構酔っていた――
 慌てて周囲を見回した後、失礼します、と小声で呟きながら思い切ってかけてあった毛布を少しだけ持ち上げる。
 中を恐る恐る覗いて、互いにそれらしい着衣の乱れが無いことを確認して、蒼太はようやくホッと息をついた。
『まいったなぁ』
 口元に苦笑を浮かべ、まだぐっすり眠っている紅葉の顔に再び視線を戻す。
『夢じゃなかったんだ』
 昨夜のことはなんだか夢のような気もしていたが、こうして隣に眠っている彼女の体温がそうではないと告げている。
『まつげも白いんだ……』
 安堵と共に余裕が生まれ、眠る紅葉の顔を改めて見つめ、やっぱり綺麗だと蒼太は思った。

 この世にこんな人が実在するなんて――

 今、こうして間近で見ているのにも関わらず、まだ夢を見ているようだ。
 子供の頃から美しい自然を見て育ったせいかもしれない。綺麗なもの、未知のものに心惹かれる。
 でも、それだけではない何かを感じている自分がいる。
 一体自分はどうしてしまったというのだろう……
 見ず知らずの初対面の女性をこうして自宅に招いたりした自分自身に困惑しながらも、それでも、彼女の寝顔を見ていると、とても穏やかな気持ちになる。
 不思議な気分だった。