『いいやつ……だよねぇ……』



 実際、今日の宿に困っていたのは確かだった。
 今まで親切にしてくれた人がいなかったわけでもない。
 どこにでも親切な人間はいるもので、心配してくれたりもしたが、性格的なものだろうか、なかなか他人に甘えることができなかった。
 ついつい、その親切の向こうに見え隠れする同情や憐れみに似た感情を探ってしまう。
 そして、そんな自分に自己嫌悪を覚えながらも、心底信用することができないまま、なかなか差し出された手に素直にすがることが出来ない。
 そこに至るまでに時間がかかってしまうから、その間に疎遠になってしまうことも多く、仮にようやく落ち着いたかと思えば、今度は相手が音をあげたり。
 そんなことの繰り返し。
 そしてそれがまた、猜疑心に拍車をかける。
 だから、今、ここに自分がいることが自分でも不思議でならない。
『なんでだろーなー』
 蒼太の寝顔を見つめながら紅葉は考える。
 初対面の彼になんであんなことを言ったのか、わからない。しかも蒼太はあっさり招いてくれた。
 何故かはわからない。ただ、彼は大丈夫な気がした……そうとしか言い様がない。
 思えば、初めてあった瞬間から彼に対しては少しも警戒心がわかなかった。何故だか相手をホッとさせる空気が彼にはある。
『そうか』
 少し変わった、だけど妙に安心できる青年。
『あたしが、もう少し一緒にいたかったんだ……』
 そんなことを思いながら、蒼太のぬくもりの心地良さを毛布のなかの空気越しに感じているうちに。
 ゆっくりとおとずれてきたまどろみ。
 心地よいそれに身をまかせ、紅葉はそっと目を閉じた……