――紅葉が行って五日経つ



 蒼太は仕事を終え、帰路についた。
 紅葉のいないアパートは、以前と違って落ち着かない……
 明日から休みだと思うと、なおさら気分が重くなる。
「ありがとうございましたー」
 コンビニの店員の声を背に、ビールの入った袋をぶら下げ、公園へと向かう。

『絶対、戻ってくるから』

 駅で別れ際にそういった、今にも泣き出しそうな紅葉の顔を思い出すと心配でたまらなくなる。
だが、翌日連絡をとろうとして、互いの電話番号を知らなかった事に気がついた。
 良く考えてみれば、蒼太は紅葉の名字すら知らなかったのだ。今、蒼太に出来ることは、ただ待つことだけだった……
 ぼんやりとしながら公園へ向かっていると、すっと脇を通り過ぎたタクシーが、蒼太の前方二十メートルほど先で急停車した。
「―― ?」
 タクシーから降りた人物は、蒼太に向かって手を振りながら近付いてくる。
「蒼~太くん。また会ったねぇ~!!」
 陽気な声で挨拶する人物を、蒼太は目を丸くして見つめた。
「アキラ……さん?」
「びっくりした?」
 いたずらっぽく、ニッと笑う仕草が紅葉とよく似ている。
「どうしたんです?」
 思わぬ人物の突然の登場に、蒼太は驚いた顔のまま尋ねた。
「ふふーん。愛のキューピットに任命されちゃったのよ」
 アキラはおどけてそう言うと、蒼太にメモ用紙を渡す。
「忘れ物届けにまいりました。あ、ちなみに今日は泊めてもらうのでヨロシク」
「あ、はい」
 メモを受取り、目を落とすと、そこには携帯電話の番号が記されている。
「紅葉のだよ」
 アキラが言った。