スーツを身に纏い玄関に立つ哲哉さんは、いつも仕事に行く時と何ら変わりない。


違うことと言えば、3日分の荷物をキャリーケースに詰めて持っていることだけ。


それが……
当たり前のように一緒に過ごしていた夜を、今日から二晩、一人で過ごさないといけないということを突き付けている。



いつも以上に寂しくて、今にも「行かないで」って喉から手がでるほど言いたくて。


それでも言えないんだから、せめてこれ以上心配させないように笑顔で送り出さないといけない。


そう思って顔を上げた時。




「あっ、忘れてた」


「どうしたの?」




ドアノブに手をかけて外に出ようとしていた哲哉さんが振り返る。




「多分、080じゃ携帯繋がらないから、何かあったら090でかけて」




言っている意味が理解できなくてキョトンとしてしまう。


あたしが首を傾げると、哲哉さんは履いていた革靴を脱ぎ捨てて部屋の中に戻っていった。


すぐに戻ってきた哲哉さんは、




「はい、何かあったらこの番号にかけてね」




そう言って一枚のメモ用紙を手渡してきた。