現実は小説よりきなり








「ほんと、大丈夫?嵐ちゃん」

エレベーターまで付き添って来てくれた美樹が心配そうに私の顔を覗く。


「あ...うん」

色んな思いが渦巻いてて上手く答えらんない。


美樹にこんな顔させてることに凄く罪悪感感じちゃうし。



「足の具合はどう?」

テーピングした足首を伏し目がちにみた美樹。


「あ...マシになってきてるよ」

だから、そんな風に心配しないで。


「良かったぁ。私が階段なんかでふざけちゃったからさ。怪我させちゃったし、これでも反省してるんだ」

派手な化粧の美樹だけど、私を見つめる瞳は綺麗だった。


「ううん、私がどんくさくて反応できなかっただけだし。謝ってくれたんだから、もう良いよ?会う度に何かしてもらうのも悪いしね」

美樹の顔を見る。


「ありがとう。嵐ちゃんは優しいね」

凄く可愛い笑顔だ。

こんなに派手な化粧しなくても良いんじゃないかと思う。



「ううん、そんなことないよ」

私は結局自分の事しかかんがえてないんだから。


美樹や古沢君が離れていってくれる事を願ってるんだし。


彼らが側に近づけば近づくほど、私が普通から遠ざかってしまいそうで怖いんだ。




チンと機械音が鳴って、エレベーターが開く。


「嵐ちゃん、乗り込もう」

美樹は私の手を引いてエレベーターに乗り込む。


いやいや、ここからは一人で.....。


「あ...もう一人で大丈夫だよ?」

と行く気満々の美樹に伝えると、


「良いの良いの。さ、行こう」

と強制的に閉まるボタンを押された。


「.....」

美樹はかなり強引な子だ。

昨日からも分かってたけど、私はこの子を振りきれない。



「嵐ちゃんて何階?」

と振り向かれて、


「5階だよ」

と答えた。



「えぇ~っ!マジで、それ凄いね」

目を丸くした美樹の叫び声がエレベーター内に響いた。

密室で叫ばれると耳が痛いんだけど。


「...そ、そうかな?」

愛想笑いで答えた。


「そうだよ。だって、5階の三部屋は個室の特別室でしょ?お風呂やキッチンも在るでしょ?」

それに広いし、と目を輝かせた美樹。


「あ...まぁ、それはそうだけど」

苦笑いで肩を竦めた。

凄いの...かな?


キッチンとお風呂は付いてて便利だけどね。