現実は小説よりきなり









「あ...あの、部屋へ帰りたいから」

とにかく退散したい。

口調が少しきつめになってしまったのは申し訳ないけど。


美樹と古沢君を俯き加減に交互に見た。



「あ...そっか、邪魔してごめんね」

申し訳なさそうに眉を下げた美樹に胸の奥がチクンと痛む。

悪気なんてなく声をかけてくれたのに。

こんな風な態度は良くないの分かってるけど。


「具合悪いのか?ついてくか?」

古沢君、空気読もうか。

小説なら、ここでキュンとかする所だろうけどさ。

私は冷や汗しか出ませんから。



「い、いいいい。大丈夫だから」

焦った顔で手を左右に振った。


今ここでついてこられた日にゃ大変だよ。



「あ、女子寮だし。私がついてこうか?」

良いことを思い付いたとばかりに両手をパンッと合わせてた美樹。


いやいや、貴女も空気読もうか。


私の早く立ち去りたいオーラをどうか感じ取ってください。


「...あ、ほんと」

大丈夫って言おうとした私に、


「おう、そうしてくれ。嵐を頼むな」

と声を被せてきた上に、なぜか私の頭を撫でた古沢君。

悔しいけどドキドキした。


途端に周囲に響き渡った黄色い悲鳴。

私達のやり取りを見てた女子生徒達が叫んだのは一目瞭然だ。



ザワザワ、ヒソヒソ、こちらを見て囁き合う学生達。

ほんと、勘弁して。


泣きそうだよ。

こんな人の多い場所で悪目立ちも良いとこだ。



「あ...大丈夫?ほら、行こう」

顔を青ざめさせた私を見て、具合が悪くなったと誤解したらしい美樹は、私の肩を抱いて歩く事を促した。


「...う..うん..」

向けられた幾つもの好奇の視線に堪えられなくて、彼女の言う通りにするしかないと思った。


「具合悪いなら休めよ?」

背後から掛かる優しい古沢君の声にも振り返れなかった。


とにかく、ここから離れたいと言う一心だったから。


「.....」

無言のまま歩く私はきっと情けない顔をしてる。


美樹の優しさも古沢君の優しさも、迷惑でしかないと思ってしまう自分が情けない。


彼らはきっと本気で心配してくれてる。


なのに、私は自分の平凡な生活を守ろうとしてるんだから。



普通で居なきゃ、目立っちゃダメだ。


出る杭は打たれて、一人ぼっちになってしまうから。


彼らへの罪悪感を打ち消すように呪文の様に唱えた。