現実は小説よりきなり







私の事なんて食堂に居る生徒達が気にしてるはずなんてないのに、見られてる気がして苦しくなる。


自意識過剰だって思うのに、眼鏡がないせいで周囲がいつも以上に気になって仕方ない。


可奈に眼鏡を掛けてない事を言われるまで気付いて無かった癖に何言ってんの?って感じだよね?


...笑えちゃう。

口元に浮かぶのは自嘲的な笑み。



こう言う時、小説だったら格好いい男の子が現れて『見られたくねぇんだろ?』なんてその胸に抱き締めるんだろうね。

あ...こんな時でも小説なんて、私ってば。


フフフ...少し気持ちが浮上した。



後少しで食堂から出られるし、そうしたら部屋に戻って眼鏡を掛けて戻ってくるだけで良い。


良し、そうよ。

悪い事ばかりは続かないよね。


うんうん、そうだそうだ。


足取りは軽くなった。

ま、足首は痛いんだけどね。




だけど、世の中ってそう上手くはいかないらしい。


不意に暗くなった視界。

ざわざわと周囲が騒がしくなる。


何事か?と顔を上げたら、そこに居たのは古沢君。



「...っ..」

ドキッと跳ねた心臓。


どうして?

何してるの?


浮かんでくる疑問。



「嵐、どうした?」

どうしてそんな優しい瞳で見つめるの?


「...な、なんでもない」

お願い関わんないで。


私の気持ちとは裏腹に目の前の古沢君はニコニコしてるし。


「そうか?顔色悪くね?」

「そ、そんな事ないし...」

だから、そこ退いてってば!



周囲の視線は古沢君が現れた事でこちらに集中し始める。


嫌な汗が背中を流れ落ちた。



ん、もう、どうしてこうなるのよ。


後少しでここから出られたのに。



「あ、嵐ちゃんだぁ。あっ!眼鏡掛けてない、こっちの方が可愛いね」

古沢君の後ろからピョコッと顔を出したのは美樹。


大きな声で叫ばないでぇ。


ザワザワは大きくなる。

そして、ヒソヒソと会話が聞こえてくる。



...終わった...終わったよ。

バッドタイムだよ。


ガクンと肩を落として大袈裟な程に溜め息をついた。