現実は小説よりきなり









いつもより10分遅れて足を踏み入れた食堂は、いつもと変わらず賑やかで。


テーブルに座って楽しげに食事をしながら談笑する生徒達や、朝食を注文する為に並んでる生徒達。


皆、朝から楽しげに笑ってる。


羨ましい。

ネガティブな私は生徒達を眩しげに見つめた後、テーピングを施した右足を庇いながらも眞由美達の座る席を目指した。


何となく見られてる気がするのは気のせいかね?


チラチラと感じる視線に首を傾げる。


ん?見てる....ゆっくり視線をさ迷わせる。


別に目が合うわけでもない。


うん、やっぱ気のせいだ。




ん?と思いながらこちらを見て手を振ってくれてた眞由美達の席へと辿り着く。



「おはよう、なんか顔色悪くない?」

相変わらず綺麗に髪を縦巻きしてる眞由美が私の顔を心配そうに覗き混む。


「...ああ、ちょっと、寝不足」

ふうっ、とテーブルに手をついた。


「ってか、嵐、眼鏡忘れてるよ」

なぜだか目を輝かせて私を見てる可奈が言った一言にピキンと体が固まった。


「...っ...ま、マジ?」

私の顔は真っ青だと思う。


「うん、眼鏡ない方が可愛いね」

悪気のない可奈の言葉とは裏腹に、ヤバいぐらい心臓が脈打った。


何てことだ。

仮面を被るアイテムを忘れるとか無いわ。



だから、さっきから皆チラチラ見てたのか?

ちょっぴり感じてた視線が気のせいじゃなかったんだと知る。



「...部屋に帰る」

一先ず退散だ。

二人にそう告げてクルリと体を反転した。



「ええっ!」

と眞由美の驚く声。


「はぁ?ちょ、ちょっと待って」

と引き留める可奈の声。



「ごめん。朝御飯食べれる気がしない」

二人にそう告げて歩き出す。


今日は出鼻を完全に挫かれた。


あぁ、やだやだ、もうテンション上がんない。


二人には後でちゃんと謝ろう、そう心に決めて急ぎ足で食堂の入り口を目指した。


もちろん俯き加減にね。


これ以上、素顔を晒したくない。


受験の時からあの眼鏡は一時も離さなかった。

心に仮面をつけるために。


そんな大事なモノを忘れるなんて...あり得ないわ。


早く部屋に戻らなきゃ。

普通じゃなくなってしまう。