現実は小説よりきなり









夕飯を済ませて、お風呂に入った。


だけど、明日からの事を考えると憂鬱はちっとも晴れない。

バスタオルを首にかけたまま、ベランダに出てみた。

この部屋には狭いけどベランダがついていて、一人分の洗濯なら余裕で干せちゃう。


月明かりに照らされた寮の中庭を見下ろした。

小さな噴水とその奥には野ばらで作られた垣根。

長いベンチが一つと、短いベンチが一つ、噴水と対面に設置されてる。

ベンチの背後にはチューリップの花壇。

日中、あの場所で日向ぼっこすると、結構気持ちいい。



夕食の時に美樹に会わなかったのは幸いだ。

また、声をかけられた日にゃ堪んない。


眞由美達の教えてくれた情報では、彼らのグループのうち、美樹と古沢君、それと戸波日向君だけが寮暮らしだそうだ。

残りの三名は自宅から通ってるらしい。


ま、私にはどうでも良い情報なのだけど。

心底彼らとは関わりたくないし。



明日もまた声をかけられたらどうしよう。

少し噂が広がったのか、クラスメイトに色々聞かれたしね。

派手な彼らに関わると否応なしに噂は拡散されるのよ。


まったく冗談じゃないわ。


噂が噂を呼んでくだらないループが回るのよ。

私はもう一人になんてなりたくないの。


その為には普通でいなきゃなんないんだから。



ベランダの柵を両手で掴んで空を見上げた。


真ん丸な黄色いお月様が優しい光を地上へと降り注いでる。

なんだか、心が洗われる風景だな。



嫌な事も面倒な事も、どうでも良いと思えてくる。

月の柔らかい光には人の心を浄化させる作用があるのかもね。


フフフ...乙女チックな自分の発想に笑みが漏れた。

だけど、こんな自分の嫌いじゃない。



「なるようにしかなんないか...」

ポツリと漏れでた一言。


そう思うのに、まだ目立ちたくなくて足掻こうとする私が居る。


怖いんだ...目立ちすぎであの頃の様に一人になってしまう事が。


今は眞由美と可奈も居てくれると言うのに。


彼女達に全てを打ち明ける事が出来てない私は、弱虫だ。