現実は小説よりきなり







「...はい」

おずおずと振り返ると、やっぱりそこはギャルメイクの美樹。

しかも、超笑顔なんですけど。


周囲の視線は当然の如くこちらに向かう。


いやいや、本当に勘弁してくださいよ。


「足、大丈夫?」

と心配そうに聞かれ、

「うん、大丈夫」

と答えた。


「そっかぁ、良かった。移動教室ついてこうか?」

いや、なぜに?


「...あ、ううん。友達居るし」

ついてこられても困るしね。


「そう?荷物持ちに行くよ」

来ないでください。


「あ、眞由美が持ってくれてるから。ね?」

隣の眞由美に振ってみる。


「あ、うん。私達がついてるから大丈夫よ」

と美樹に言ってくれた。


ありがとう、眞由美。



「そう?でもなぁ...」

お願い納得して!


古沢君のグループの人達の視線がビシビシ向かってくるんですけど。


どうか、この場から立ち去らせて。



「あ...ち、遅刻しちゃうから行くね?」

ギャラリーが増える前に退散だ。


「...あ、うん。たまね、嵐ちゃん」

可愛く笑って手を振ってくれる。


「ん。またね、美樹」

または無いように願いたい。


手を振って背を向けて再び歩き出す。


ドキドキと高鳴る心拍数に苦しくなる。



ほら、他の生徒達が何事か?と見てるじゃん。

私は目立ちたくないんだってば。


お願いだから、私の普通を壊さないで。



「嵐、またな?」

聞こえたハスキーなイケボイスにギクッとなる。


ふ、古沢君の声だよね?


どうして声なんて掛けんのよ。


ヒソヒソと内緒話を始めた生徒達を見て、嫌な汗が額に沸く。


だけど、無視なんて出来るはずもなく、仕方なく振り返って小さく手を振った。


お願い、もう止めて!


古沢君が遠慮勝ちに手を振る私を見て、口角をクイッと上げたのを見逃さなかった。


そして、彼の側にいたぶりぶりぶりっ子のギャルが物凄い形相で睨んできた事も。


ゾワリと粟立つ背中。


ほんと、勘弁してくださいよ。


ペコッと頭を下げて正面に向き直った。


早く退散するべきだと、私の予感が知らせてる。



「早くいこ」

可奈と眞由美の腕を掴んで足早にその場を後にした。


足首が痛いとか言ってらんないから~!