現実は小説よりきなり











可奈と眞由美は私を守るように両脇について歩いてくれる。


「気を付けてよ」

と眞由美。


「もうぶつかられないようにしないとね」

と可奈。


「ありがとうね、二人とも」

二人と友達でいられる事を嬉しく思うよ。



長い廊下を歩く私の目に飛び込んできたのは...あの集団。

自分達のクラスの前にたむろしてる。


ああ、よりによって...。


神様、どうか、見つかりませんように。

無駄な願いを願ってみる。


彼らの前を通らなきゃ階段に向かえないんだから、バレるに決まってる。


って、話しかけて来ないって可能性もあるよね。


そうよ、そうだよ。

私、何を自惚れてたんだろ。

今まで接点のない時は、声なんて掛けられたことなかったし。

きっと、このままスルーしてもらえるはずだ。


うんうん、きっとそうだ。

勝手な理屈をつけて納得すると気持ちが軽くなった。



さ、小説の為の観察をさせてもらっちゃお。



男の子二人がヤンキー座り。

その前の二人の女の子と話してる。

一人は美樹ね。



古沢君は、開いた窓のサッシに片手をついて、自分を上目使いに見上げる女の子と話してる。

彼女は色気をアピール中って訳ね。


胸元のボタンを3つほど外してる彼女の胸元は、見下ろしてる古沢君から丸見えでしょうね。

あれがセックスアピールなんだね。


フムフム...。

彼女のあの仕草は今度出てくるライバルの女の子に使えそうね。


古沢君のグループは、私の小説に素敵な題材を与えてくれる。


助かるなぁ。


観察してる事を気付かれないように注意しなきゃな。



小説の事を考えてるとテンション上がる。

やっぱ、私の元気の源だわ。



楽しくなった気持ちのまま、彼らの前を素通りする。

もちろん、もう声なんて掛けられるはずないって思い込んだから、気持ちも軽い。


神様に願ってみるもんね。





だけど...神様なんて、居ないのだと次の瞬間に分かるのだ。






「あ、嵐ちゃんだ。移動教室?」

聞こえてきた甲高い声にビクッと肩が上がる。


いや、気のせいだ。

幻聴だ!と言い聞かせて歩みを止めないでいた私の肩を叩く人物。


「嵐ちゃん」

もう逃げらんない。


はぁ...と小さく溜め息をつく。


両脇の二人は私に同情の視線を送ってくれた。