柔らかく、いい匂いがする。

視線をそこに向けると、仁の胸に縋り付き、丸くなって寝ている葵がいた。





「やっと俺のだ……」





起こさないようにそっと葵を引き寄せる。

愛おしい葵の頭にキスを落とす。





「……ん……」

「起きた?」

「ええ」





恥ずかしがる葵をぎゅっと引き寄せる。





「葵の花嫁姿、とても綺麗だった。直視出来ないほどに……」

「急にどうしたの?」

「葵の目が覚めるまで、寝顔を見ていたら思い出したんだ。でも……本当に傷つけた」

「……」





もう昨夜で葵の答えは出ていた。





「桃香さんが来たの……ここに」





仁には言わないと思っていたが、隠し事をしているようで後味が悪かった。





「何しに来たんだ! また葵を泣かせるようなことを!」





桃香の名前を出した途端に、仁は激高する。葵は、落ち着かせるように、そっと仁の頬に手を当てた。仁はその手に自分の手を重ね、愛おしそうにキスをした。





「違うわ……謝りに来たの。お姉さんから聞いて、焦ったって。どうしてこうなったのか説明してくれて、謝ってくれたわ。仁さんと同じ説明をしてた」

「……」

「私は、あの時、仁さんの言葉を信じ切れなかった。でも、仁さんの言葉を信じる。同じ説明でも、仁さんだけを信じる」

「葵」





葵は、窓一杯に広がる星空を見た。





「ここの星空はきれいでしょう?」





仁は、窓から見える星空を見る。





「とても綺麗だ」

「この星空を、仕事で忙しくしてるあなたに見せたいと、毎日思っていたの」

「葵?」

「私はこれからを見ることにするわ」

「これから?」

「そうよ、仁さんと私のこれから」

「それって」

「恋人同士になって、夫婦になって、家族になるの。私のずっと傍にいてくれる?」





仁は葵を見つめ、髪を撫でる。





「愛してる」





葵は染み渡るその言葉を全身で受け取り、仁を見つめる。葵の目から一筋の涙が流れた。





「……」

「葵、もう一度、俺と結婚してくれないか?」





葵の返事は決まっていた。



だが、それは直ぐに答えることはしない。仁を困らせ、焦らすのを仕返しとするのだ。

嫌味なほどににっこりと笑顔で返す。



仁は、葵の駆け引きに応じるつもりなど毛頭ない。葵の言うことは聞かない、ただ、強引に囲い込むことだけだ。怖くて、後ろめたさで何も出来なかった結婚生活。触れ合いたい気持ちを抑えていた。もう、そんなことはしない。



仁は、何かたくらんでいそうな葵の口を、封じ込めるように塞いだ。





「愛してる」





ずっと言いたかった言葉だ。

愛おしい葵を抱きながら、仁は言った。







END