「お試し」って言葉は、人生の中でも得を意味してる気がして、“試食”にしても“試着”にしても、物は試し的な感じで、いろいろ試してきた。お金をかけずにできるから楽しいって部分も、きっとあったと思う。でも先日、十二年働いた仕事場を思い切って辞めた時、“試し”で次に何しよう…?って、すごく悩んだ。
やりたい事は沢山あった。
…と言うより、今まできっとやりたい事をやらずに来てたんだと思う。仕事柄、体力と気力考えると、どうしても挑戦できなかったから。
夜勤に準夜、早出、遅出…三交替勤務の仕事に体調を合わせるのは辛かったし、第一夜勤明けの休みなんて、休みであって休みでない。その仕事がどんなに嫌いじゃなくても、一生続けていきたいとは思えなかった。

「辞めて次何するの?」
沢山の人に聞かれた。
次の事なんて考えてたら、仕事なんて辞められない。大体、次っていうのは今よりも先の事なんだから、大事なのは今でしょ?と、返って言いたくなるくらいだった。

“お試し” のつもりで始めたい!…と言うか、やりたいな…と思う事を書き出してみた。
・お見合い(婚活⁈ )
・イメチェン
・旅行
どれもお金かかるなぁ…と思うけど、今までやってこなかったことの理由の一つに“お金が勿体ない”っていうのもあったから、まずはそこから考えを改めよう。
これからはお金も時間も“勿体なくないように使う!”
だからその為にまずやろうと決めたのは、イメチェン。

「プチ整形」のチラシを街角でもらった。
するつもりはないけど、まずはメイクの仕方を変えよう!
雑誌買って来て見ながら研究。
アイラインなんて目が痛そうで引いたこともないけど、やってみたら簡単!私でもできた。次はつけま…と言いたい所だけど、なんだか少しめんどくさい。だから、取りあえずマスカラだけ。
「へぇー、お目々がパッチリだ」
ちょっと感動。
三十五歳を前にしてこんな事で感動してる…遅すぎだよね。

お次はヘアスタイル。
今までは仕事柄、まとめておかないといけなかったから、ずっとロングにしてたけど、この際だ。思い切って切っちゃえ!
「いきなりベリーショートはきついから…でも、セミロングじゃ変わんないし…だからショートカットで!」
似合う、似合わない関係ない。とにかく今までの自分じゃない自分になりたい。ただそれだけ。
「結構似合うじゃない!」
そう言われると、まんざらでもない気がした。
「カラーもしてみませんか?少しオレンジ系入れると明るい感じになりますよ」
美容師のお兄さん、楽しくなってきてる。こういうの、今まで乗ったことないけど、いいや。“お試し”だから乗っちゃえ!
「お願いします。お任せします!」
今までカットしかしなかったんだから、一度くらいいいや。
カラーしてもらってお店出た時、なんだかとっても頭が軽かった。
いやいや、はっきり言って軽いのは心の方。
すごい開放感を手に入れたような気分。人生充実してきてる。そんな感じだった。

ヘアスタイルやメイクが変わると、人間不思議と服装も変えたくなって、今までどうしようと悩んでた服にも自然と手が伸びる。
「なんだ、意外にいいじゃん!」
自画自賛。ここまでくるとヤバイでしょ。
今まで、こんな楽しい気分になった事なかったよね。イメチェン大成功 ‼︎

「さて、次はどっちをするか…」
お見合いと旅行。
先に旅行してもいいけど、恋人の一人もいないんだから…
「お一人様か…それ侘しーな…」
ならば、やっぱり先にお見合い!

『結婚相談所』
ん〜っ…こういうのって、名前がいかにも…って感じ。
「もう少しフランクな感じの名称に変えればいいのに…」
“お試し”でお見合いしようって人が何を言ってんだか。とにかくあれこれ考えてないで、入ってみるか。
申し込み書を書くにあたり、注意事項その一。
“文字は丁寧に美しく書きましょう”
まずはそこから…?既にお見合いは始まってるんだね。
「お見合いを希望される方の年齢は?職業は?年収は?性格は?趣味は?…」
(あー疲れる…なんだかこのアドバイザーって人の質問に答えるだけでうんざりだ…)
「私、とりあえず自分の年齢にプラマイ五歳差までで考えたいです。仕事はサラリーマンで、転職歴は二回まで。年収も月収が二十五万以上ある方ならOKだし、性格は会ってみないとわかんないから、今は置いといて。趣味はドライブかな…あっ!それと、タバコ吸う人は嫌。お酒もお付き合い程度がいい!」

一つ言い出すと、結構出てくるもんだね。
どれも具体性には欠けるけど、それでも一応、この条件に合うっていう人が、思った以上、沢山いらっしゃった。
顔写真をパソコン画面でチェック。
この中の情報って、全て正しいのかな…と思う。信頼度90%っていうのが、ここのウリらしいから…。
(でも全部見てられない。いいや、テキトーで…)
とりあえず五人ほど、会ってもいいかな…と思う人を決め、お見合いの日取りが決まるまで自宅待機。

やれやれ。ほぼ一日費やしたよ…。
疲れきった足取りで自宅へ帰る。
婚活してるとは思ってない母親に、
「仕事見つかったの?」
と聞かれ、
「まだよ」
と答えた。どうやら私が就活してると思ってるらしい。
(就活なんて、しばらくしたくないのに…)