母親は決して“殺し屋”と言う仕事には慣れていないので、父親には逆らえなかった。

父親に逆らえば、待つのは死。

たまに組織のビル内を運ばれていく、誰だかわからなくなった死体を見て、母親は実に気持ち悪い毎日を過ごした。

倒れることも少なくはなかった。



「免疫がない奴は困るな・・・」

「いえボス。
鈴美(すずみ)様は、ボスに気に入られるよう頑張っておられます。
ボスが鈴美様を見放せば、誰が鈴美様をお引き取りになるのでしょうか?
鈴美様のご両親はすでにお亡くなりになっておられます。

その上、ぼっちゃまの教育にも、母親という存在は大切でございます。
ボス、もう1度お考えになってみてはいかがでしょうか?

まぁ、1人の幹部の意見だと思って、流してしまわれても結構でございますよ」



人間嫌いなお父様が唯一まともに話せる存在―――アイスは、不敵に微笑む。



「ふむ、お前の言う通りだな」

「いえ、僕は僕の意見を言ったまでですよ。
ぼっちゃまもいますしね?」

「何?キョウ、いるのか?」



俺は弾切れになった銃を手に、父親とアイスの前に現れる。



「立ち聞きとは、いけませんよぼっちゃま」

「スイマセン・・・」

「ぼっちゃまはお母様が好きでございますか?」

「お母様?勿論、大好き!」

「・・・いかがでしょうか?ボス」

「・・・鈴美には慣れてもらう」

「まぁ、極力鈴美様の前に死体を出さないことでございますね」



ふう・・・とアイスは溜息をついた。