半年後、週一回の慎吾からの手紙は完全に恒例となっており、違法性がないことも認識されたのか刑務官ももはや検閲すらしなくなっている。内容も事件のことには一切触れなくなり、慎吾の近況や悩みや愚痴を結衣が受け止めアドバイスや感想を返す流れになっていた。
 加奈は今まで通り、手紙の内容についてアドバイスすとことはなかったが、恋愛については突っ込んで聞いたり意見をくれる。世間一般ではクリスマスを迎えて浮かれているが、そのクリスマスに慎吾から手紙が届き刑務所内ながら約一名も浮かれていた。
「慎吾君から手紙来たんだね。結衣、顔がやばいくらいニヤケてるから一発で分かるわ」
「ご、ごめん」
「で、今日もラブラブですかね?」
「だから、まだお互いに好きとかも言ってないし、付き合ってもないから」
「結衣は好きなんでしょ?」
「う、うん……」
「ならもう書いちゃえよ。書け書け! 告っちゃえ!」
「無茶言うな! 拒否られて文通が途絶えたらショックで生きていけないよ」
「現状に満足してたら成長はない! って私の中学時代の担任か誰かが言ってたよ?」
「それとこれとは違うと思う。とにかく、私は今の関係を大事にしたいの。告白なんて、できないよ……」
 照れながら答える結衣を見て加奈は嬉しそうな顔をする。
「うわ~、青春してんな~、見ててキュンキュンするわ。今日来た手紙はまだ読んでないんだろ? 早く読んでお姉さんに相談してみ。ホレホレ」
「はいはい、ちょっと待ってて」
 寮の隅に行くと結衣はドキドキしながら手紙を開く。


『結衣さん

拝啓、メリークリスマス!
たぶん、今までの経験上クリスマスイブかクリスマスにこの手紙が着くと思うので言っておきます(笑)
早いものでこうやって文通するようになって三年くらいでしょうか?
ここ半年は僕からのリクエストもあって、毎週のように手紙のやり取りをしてきましたね。
その間、いろいろなアドバイスを頂きながら、未だに彼女ができない情けなさと言ったらもう……(笑)
先週の合コンでも……、以下略
いい加減、コンビニ弁当にも飽きてきましたし、来年こそはちゃんと彼女を作りますよ!
ちょっと早いけど、来年の抱負と言うことにしといて下さい。
ここだけの話、ちょっと気になる人もいますしね。
それはさておき、今日は大事な話というか、お願いがあります。
麻友が亡くなって四年が来ようとしている訳ですが、一度面会に行っても構いませんか?
当時は結衣さんの顔を見ると、殺意を抱くくらい恨んでいました。
顔を見るときっと感情にまかせ、酷いことを言うだろうなと言う思いもありました。
でも、今の結衣さんとなら顔を見てもちゃんと話せるような気がするんです。
面と向って言いたい事もありますし、結衣さんも普段から直接僕に謝罪の言葉を言いたいと言っている。
年が開けて、僕の休みが決まったら早目に手紙で連絡するんで、面会室で言いたいことを言い合いましょう。
僕のためにも、結衣さんのためにも、きっといい機会になると信じています。
では、少し早いですが、良いお年を。

敬具』


 最初はニコニコして読んでいた結衣だが、面会という単語を見てから顔色が変わる。直接会うということが嬉しい反面、向けられるであろう厳しい言葉の重みや痛みも強烈なものになる。震えている結衣を不審に感じた加奈が話し掛けてくる。
「どうした? 顔色悪いよ?」
「面会……」
「えっ?」
「面会、したいって」
「え、それって、もう告白パターンに入ってんじゃないの!?」
「いや、そういう訳じゃないと思う。事件に絡んだ真面目な話っぽいから」
「そうなんだ。でもさ、いずれにせよ、会わないって選択肢は無い。直接会って謝罪し、罵られ殺人者呼ばわりされるとしてもね。恋人とか友人とかそれ以前に、私達は罪を犯した受刑者なんだから」
 加奈の正論を受けて結衣も素直に頷く。
「まあ、良い話にせよ、悪い話にせよ。覚悟を決めて会うのね」
「分かった。そう返事書いとくよ」
 結衣は書き慣れたいつもの便箋を取り出すと、慎吾との面会許諾の文章を綴り始めた。