げ。


着替えを済ましてオフィスに向かおうと廊下に出ると、向こう側からやってくる人物に気付いた。





ツイてない。





「おはようございます」



すれ違う前に、挨拶する。



「あぁーら、おはよう。」



お局・椿井は珍しく、特にそれ以上何かを言うつもりはないようで、立ち止まる事無く通り過ぎていく。




―珍しいー



ほっとしていると。



「あ、そうそう、お兄様はお元気?」



ヒールの音が鳴り止んだ廊下に、椿井の声がやけに響いた。





「…はい」




私も立ち止まって、振り返り、頷いてみせる。



本当は、元気かどうかも、知らないけど。




「そう、良かったわぁ。今度またぜひお会いしたいものだわねぇ。」





それだけ言うと、椿井はまた歩き出す。


その後ろ姿を見送りながら。



多分『今度』はもう来ないだろうと、感傷的になった。