周りに助けを求めても、野次馬は大勢いるのに手伝ってくれそうな人はいない。

「警官が来るまで彼女を押さえていてくれたら壱万円払うわよ」大声で声を掛けたら

「それ乗った!」とやって来たのはBARのカウンターで飲んでいた男性だった。

何故か?

「これで殴られた左目を冷やした方がいい」と氷菓子のカップとコンビニの袋を縛った物を手渡される。

袋の中身はクラッシュされた氷が入っているのかとても冷たい

コンビニの袋を二重にして作った簡易の氷嚢(ひょうのう)みたいだ。

自分の顔が一体どうなっているのか?

凄く気になるけれど鏡を見るのも怖い。

情けなくて泣きたくなってくる。

「彼女とは知り合い?」女を抑え込みながら男性がそう声を掛けてきた。

「いいえ…初めて会いました。多分、人違いをしているんじゃないかと…」

「人違いじゃありません」私の言葉に被せて彼女が大声で喚き散らす。

野次馬たちの囁きや視線も痛い。

全く身に覚えもないのに、まるで私は「泥棒猫の悪女」だと決めつけられているみたいで居た堪れない。

早く女を警官に引き渡して病院に行きたい。

時間の経過と共に痛みが激しくなってくる。

まさか…顔面骨折とかじゃないわよね?

簡易氷嚢で左目を軽く押さえながら俯いていたら

「吉行主任」と言いながら走ってくる男の姿が微かに見えた。

「城田君?…」イケメンだけどチャラくて仕事にケアレスミスの多い厄介な私の部下がどんどんと私たちに近付いてくる。