NENMATSUラプソディ

 「痛いよ!」


 後頭部にそう叫べば、ぴたりと足を止める。振り返る顔が今までに見た事もないような真顔だった。



 「好きだからだよ」


 「え?」

 「優菜の事が好きだから。昨日はいっぱい頑張ったんだけど。初めてを許してくれたし、優菜も同じ気持ちになってくれてると思ってた」

 そう言うホスト氏が、まるで気弱になってイケメンの影をすっかりひそめてしまうから思わず傍へ駆け寄る。

 「そういうわけじゃ」
 「それとも、あとくされない相手でそういうの、捨てたかっただけ?」
 「違うわよ!」
 「じゃあどう思ってたの?」
 「どうって……その、まさかそんな風に思ってくれてるとは思わなかったから」
 「じゃあ、これからは、ちゃんと考えてくれる?」
 「へ?」
 「ちゃんと付き合うって考えてくれる?」
 「え……とあの……」
 「優菜はそう言う事を真面目に考えないような相手としちゃえるんだ?」

 とんでもないことを言われてるから、ぶんぶんと首を横に振った。

 「私はそんな女じゃないよ!もちろん、ちゃんと……」
 「ちゃんと付き合うよね?」

 こんなイケメンにそんなすがるような目をされたら、まるで私がものすごい悪女みたいじゃないか。
 その上ひどく不道徳な感じだ。よくない。私はそんな人じゃない。

 「もちろん、ちゃんとする」

 私はそう言って、ホスト氏の手を握る。イケメンもこうなっちゃうと精彩を欠くってやつ?さながら捨て犬みたいな残念なイケメンとなりはてたホスト氏が、うつむいていた顔をすっとあげた。

 へ?あ?

 さっきまで、これでもかとだしていた捨て犬オーラをいきなり引っ込めて、にやりと笑う。


 え?にやり?


 「はい、捕獲」
 「え?」
 「ところでさ、優菜、俺の名前覚えてるよね?」
 「……え……と……」
 「へえ……名前、知らない?」
 「はは!いやまさか!」

 と謹んで笑顔で応対したわけだけど。 

 「じゃあ、今日は俺のことをいろいろと教えてあげるから今年中にちゃんと覚えてね」
 「今年中……?」
 「そう、今年中に、家に帰れたらいいね」

 口はぴかりと音が出そうなほど笑顔なのに、目が一ミリも笑っていないという不思議な笑顔を向けられて、ちょっと意味の解らないこと言われた、まさに年の瀬ギリギリ。


 来年は、良い年になるのだろうか……。