私は迷いを振り払うように首を振った。


「もうこれ以上傷つくことなんてないわ。あなたが向井のこと、忘れさせてくれるなら」


もう迷わない。


絶対後悔なんてしない。


「成瀬さん」


成瀬さんは否定するように首を振って、


「『慎吾』だ」


耳元で囁かれる吐息の熱さに、全身に身震いするような甘い痺れが駆け巡る。


「慎吾」


絡み合う視線と視線。


それは瞬時に熱を帯び、吸い寄せられるように重なる唇。


そっと触れ合うような優しいキスは、やがて深く激しく互いを求め合うものに変化していった。


焼け木杭に火がつく、なんていうけれど、今の私達はやけ酒に火がついてしまったとでもいうべきなのか。


なんてことは頭の片隅に追いやり、慎吾の背中に腕を回した。


私と慎吾のふたりだけの時間が動き始めた瞬間。



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