「向井は私が内科で研修医をしていた時の指導医だったの。仕事中は厳しかったけど、仕事を離れるとものすごく優しくてね。
いつの間にかそのギャップにハマっちゃって……気がついたら彼のこと好きになってた。内科から小児科に異動する時に彼も同じ気持ちだったことがわかって……」
喉の渇きを覚え、話を中断し、キッチンへと向かう。
冷蔵庫の扉を開けると、
「酒はやめろよ!」
強い口調の成瀬さんに、
「誰が酒飲むって言った?」
強気で返し、ペットボトルのミネラルウォーターを2本取り出した。
1本を彼に投げると難なくキャッチ。
彼の前に戻り、キャップを開けて、一口喉に流し込む。
「前期研修を終えたら結婚しようって約束していたの。でもあの人は私より出世を選んだ。
昼間、私に言ったの『香澄のことは愛してはいない、本当に愛しているのはお前だけだ。
だから結婚しても別れたくない』ってね」
向井先生の勝手な言い分をぶちまけた。
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