泣きたい夜には…~Hitomi~




ふふっ!


「ほらね、だって私、26だもん」


「えっ!?」


成瀬さんは目を見開き、申し訳なさそうに、


「ということは、研修医、なんですか?

先日お世話になった時の手際の良さを考えると、5、6年目くらいの先生なのかと思い込んでいましたので」


失礼しました、なんて言われてしまうとこっちまで恐縮してしまう…。


「ふふふ。そうなの、あともう少しで前期研修が終わるの」


突然、脳裏に彼が、


向井先生が言った


「結婚しよう!」


その言葉が、


その声がリフレインする。


「それなのにあの人は…」


涙が零れ落ちる。


もう泣くまい。


そう心に決めたのに。


「帰りましょう。部屋まで送りますから」


私の涙に慌てた様子で成瀬さんが伝票を持って立ち上がる。



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