そう思ったが、さすがに俺も薄情なことはできない。
そんなことをした日には後で五郎に何をされることか。
「……。」
えぇい!嫌われついでだ。
笑顔の上杉教授をまっすぐ見た。
笑顔を崩さぬまま、威圧感が襲いかかる。
異様な空気を察知した五郎が教授の背後で「やめろ!」と大きく首を振る姿が見えた。
でも、それをスルーしてさらに教授をじっと見据えた。
気に入らなければクビになり地方に飛ばすなり、好きにすればいい!
「私と小野塚が医大時代、同級生だった旧姓上杉詩織さん、今は飯山詩織さん……」
上杉教授の眉がピクリと動いた。
彼女は教授にとって目の中に入れても痛くないほど溺愛する娘。
「先日、消化器病学会でお会いしまして、その時詩織さんが
『父に飲み過ぎないように伝えて欲しい。私と娘のために長生きしてね』
と、そのようにおっしゃっていました」
言い切った直後、大野教授の唇がプルプルと震え出し、それを見た五郎の表情はムンクの叫びのようになっていた。
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