「アンタっていい男なのに、昔っから本当に鈍いわね」


五郎に呆れられ、


「最後のひとつは天国にいる政孝の分に決まってるでしょ?」


そう言われ、


「あ……」


ようやく気づいた俺って……


「そうか……そうだよな」


ひとみの幸せを一番喜んでいるのは、誰でもない政孝だから。


五郎は俺とマスターにグラスを渡すと、自分も手に取り、


「アタシ達が浅倉のオーベンになったのは、政孝がそうさせたんじゃないかしら?あの男、筋金入りのシスコンだったから他の男に可愛い妹を任せたくなかったんじゃないかしらね?

向井の毒牙には引っかかっちゃったけど」


どこまでも憎らしい言葉を吐き、意味ありげな笑みを浮かべる五郎に返す言葉もない。


「政孝、アンタよく言ってたわよね?妹には病院のためじゃなくて本当に好きな人と結婚して欲しいって。アンタの妹は自分の手で幸せを掴んだわよ」


五郎はカウンターに残されたシャンパンの入ったグラスに語りかけると、自分のそれをそっと合わせた。



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