「ひとみと付き合っていた時に実家のことも兄がいたことさえも話題に上らなかった」


気づかなかった俺も俺だが……。


俺が家族の話をしてもひとみからは自分の家族のことを語ることはなかった。


「まぁ、負けず嫌いで気が強いから桂川のことは言いたくなかったんじゃないかしら」


五郎はそう言うと、グラスに口をつける。


「親の七光りではなく実力で勝負なんて浅倉らしいわよね。あの子は政孝の分まで……二人分の人生を背負って生きている、そんな気がするわ」


二人分の人生……


その言葉にズシリと重みを感じた。


「だからあの子のオーベンになった時、厳しく指導したの。桂川のためというよりも政孝の分まで頑張って欲しいと思ったから。浅倉マジックにはアタシも敵わないけど、厳しさは今も変わらないつもりよ。

浅倉ってどんなに厳しくしてもいじけないで食らいついてくるから、いじめがいがあるのよね」


五郎の奴、いいことを言いながら落としてくれる。



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