「俺、ずっと気づかなかった。ひとみが政孝の妹だということに」


政孝……浅倉政孝は医大時代の親友で、顔を合わせればいがみ合う俺と五郎の緩衝材のような役割を持った存在だった。


国家試験に合格し、明日から研修医としての第一歩という時に彼は無免許運転のバイクにはねられ死んでしまった。


「アタシは知っていたわよ、浅倉が政孝の妹だって」


えっ……


驚きのあまり、五郎を見た。


「政孝の葬儀で泣き崩れる両親を慰める高校生だった浅倉の姿を今でも覚えている。必死に涙を堪え、唇を噛みしめて真っ直ぐ遺影を見つめる浅倉の目に芯の強さを感じたわ。その時思ったの、桂川総合病院はこの子が継ぐに違いないって」


あの時の俺には政孝の突然の死に周りを見る余裕なんてなかった。


でも、ひとみのオーベンになった時、初めて会った気がしなかったのは彼女のどこかに政孝を感じていたからなのかもしれない。



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