昼休み、重い足取りで裏庭へと向かう。


呼び出したのは私なのに、すぐにでもここから逃げ出してしまいたい。


空を見上げると私の気持ちとは対照的に抜けるような青空が広がっていた。


冬でも温暖な気候と言われる湘南でも3月上旬はまだ肌寒い。


裏庭に植えられている桜の木も花芽が膨らんで春の訪れの近いことを感じさせる。


蕾がつく頃には幹の色がピンクがかって見えるようになる。


皮肉なものね、それを教えてくれたのが悟さん、あなただった。


あと3週間もすれば綺麗な花を咲かせ、患者さんの心を和ませてくれるだろう。


その頃には私も元気になっているといいけれど。


「ひとみ」


白衣姿の悟さんがゆっくりとした足取りで近づいて来るのが見えた。


相変わらずのポーカーフェイスで何を考えているのかわからない。


私なんて緊張しすぎて頬の筋肉が強張っているというのに。



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