全く自分は子供ができて幸せの絶頂にいるくせに、無意識に人の幸せを壊さないで欲しいものだわ。
だからといって、ここで諦めるわけではない。
ピンチの後にチャンスあり。
浅倉ひとみは転んでもただでは起きない女ですから。
この場から離れようとする慎吾を、
「成瀬さーん!フロンティア製薬の成瀬さーん!!!!」
強引に呼び止めた。
職権乱用で申し訳ないけれど、ここ(病院)では、医師とMR。
慎吾は立ち止まらないわけにはいかない。
「どうしました?浅倉先生」
いつもとは違う引きつった営業スマイルに申し訳ない気持ちを抑えて、
「成瀬さん、お願いしていた喘息治療薬の件なんですが……あ、向井先生、仕事に戻ります」
本当はそんなもの、お願いなんかしていない。
慎吾のおかげで向井先生から逃れることができた。
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