泣きたい夜には…~Hitomi~




昼休み、


食事を終えた後、中庭へ行き、ほんのり赤や黄色に色づいた木々を眺めながらベンチに腰を下ろし、目を閉じる。


日に日に冷たくなる空気に耳をすませると、近づく冬の足音が聞こえるような気がした。


カサッと落ち葉を踏む音がして、誰かが隣に座った。


目を開けると、


「お前、教授推薦のアメリカ留学の話、断ったんだって?」


厳しい顔をした向井先生がいた。


アメリカ留学の話はごく一部の人間しか知らない極秘事項。


恐らく私達の事情を知らない上層部の人間が指導医だった向井先生に私を説得するよう頼んだに違いない。


「はい」


付き合っていた頃では考えられないほどのそっけない答え。


取りつく島もないくらい冷酷なもの。


「何がはいだ!一生に一度のチャンスかもしれないのに、それを棒に振るなんて……何を考えているんだお前は!!!!」


先生は島どころか海水までをも蒸発させてしまうくらいの熱意で私を諭そうとしている。



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