「来年度から母校の帝国医大の講師を引き受けることにしたよ」
お父さんの言葉に、仕事をすることでお兄ちゃんのことを躍起になって吹り切ろうとしている。
そう思うとやりきれない気持ちでいっぱいになった。
「あら、今までずっと断り続けていたのに、どういう心境の変化かしら?」
気だるげな声のお母さんは、お兄ちゃんの死後、睡眠障害に悩まされながらも深い悲しみと戦っている。
「色々と考えたんだが、政孝が亡くなった今、私達の子供はひとみだけだ。ベッド数800床を超す病院を託すのはもうひとみしかいない。政孝は怒るかもしれないが、やはりひとみは医師と結婚させることにした。大学講師を受けたのも優秀な医師の発掘とひとみの婿探し……ひとみの幸せのためにな」
ドクンッ!
心臓が大きく動いた後、背中を冷たいものが滝のように流れ落ちていく。
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