泣きたい夜には…~Hitomi~




「ねぇ、お兄ちゃん遅くない?」


明日から医師としての第一歩を踏み出すお兄ちゃんのために、サプライズで激励会を開こうとお母さんと朝からご馳走を作って待っているんだけれど、お兄ちゃんは朝から出かけたまま一向に帰って来る様子がない。


「おかしいわね。夕方には帰るって言ってたのに」


お母さんが心配そうに窓の外を見た。


「携帯に電話を入れてみるか」


お父さんが電話に手を伸ばしたその時、


RRRRR…


電話が鳴った。


すぐさまお父さんが電話に出る。


「もしもし、何やってるんだよ?」


お兄ちゃんだと思って電話に出たお父さんだったけれど、


「何だ生沼くんか、すまんすまん…で、何かあった?」


病院からの電話のようで。


「……ッ!本当なのか、それは……」


さっきまで穏やかだったお父さんの表情が一瞬にして影が差した。


顔面蒼白で何かに怯えるように体を震わせて……


いつも冷静なお父さんのこんな姿は今まで見たことがなかった。



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