急いで部屋着に着替え、医療バッグから聴診器を取り出した。
「胸の音聴かせてくださいね」
意識のない彼に声をかけ、ワイシャツの裾から聴診器を入れた。
脈拍、呼吸とも異常は見られないが、喉の触診で扁桃腺の腫れが見られた。
インフルエンザ検査をしてみたが、結果は陰性。
綿棒を鼻に挿入した時に苦しそうに顔を歪めていたけれど、目覚める気配がなかった。
診断は恐らく扁桃炎で間違いないだろう。
熱を測ってみると38度8分。
こんな身体でよく車を運転して帰ってきたものだ。
医療バッグから輸液バッグと点滴スタンドを出し、点滴を施した。
本来ならばすぐにでも救急要請して病院に搬送するのが正しいことはよくわかっている。
なのに、同じマンションの住人とはいえ、名前も部屋番号も知らない人間。しかも男性を自分の部屋に上げるなんていつもの自分だったら考えられないことだ。
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