信子の叫びが、ピタリと止んだ。


ネジの切れた人形のように、パカリと口を開いたまま、ぴくりとも動かない。


地に伏して動かぬ頭の上に、淡々とした声が降りそそぐ。



力のないお前たちは、なんの役にもたたぬ。


なのに食い、生きている。


・・・だれが、その食物を用意する?


だれが、命を張ってお前たちを異形から守る?


それは我らだ。


我らが能力を行使し、命を犠牲にして、お前たちを生き長らえさせている。


だがお前たちは、その我らに対して何ひとつ、何の利益も返さない。


それだけの能力を持たぬ存在だから。


なのに、お前たちは声高に叫ぶのだ。


自分たちにも生きる権利があると、当然のように。


神の一族たちと同じ権利を、自分たちにも寄こせと言う。


何もできないくせに。


何もできず、我らから搾取するばかりのくせに。



『何の役にも立たぬゴミが、産まれただけでも迷惑なものを』


『・・・・・・・・・・・・』


『ゴミの分際で、まともに生きようなどと片腹痛いわ。笑わせるでない』


父親は、瀕死の娘の前髪をつかんだ。


そのまま持ち上げ、意識の失せた顔に向かって言い含める。


『哀れなものよのぅ。一度母に捨てられ、再び見殺しにされるか』


『・・・・・・・・・・・・』


『よく聞け。これは全て、お前の母親のせいじゃ』


水を飲ませたのも、母のせい。


お前をわしの元へ寄こしたのも、母のせい。


そもそも・・・・・・


『お前を産んだのも、あの女のせいじゃ』


『お゛・・・・・・』


もはや人のものではない唇が、ようよう音を出す。


身じろぎもしなかった信子が、弾かれたように顔を上げて娘を見た。


『お゛ が  あ゛ ざ ・・・・・・』


子独楽のウロコだらけの頬を、透明な涙がひと雫、伝って落ちた。


どおぉっと、信子の両目から涙がほとばしる。