…今日はよくまいる日だと思った。

仕方無く、中蓋を下ろすと、便座にまたがった。

どうすれば出られるのか、まわり中を見回した。

今度は手垢は見えなかった。

何も仕掛けらしいものは見付からなかった。

天井を見た。

音もなく回る小さな換気扇が中央にあるだけで、あとはもちろん鏡張り、俺の情けない姿が写っていた。

床は磨き抜かれた黒曜石で、鏡のような光沢を放っている。

(ふーん、どうしたものか?)

大声を上げて助けを呼ぶのも大の男らしくない。
現に女の彼女がここから何事もないように出て来たのだ。
男の俺が助けを呼ぶ訳にはいかない。

長期戦を覚悟して煙草に火をつけた。

途方にくれ、紫煙を眺めた。

紫煙は頼りない螺旋を描きながら天井の換気扇に吸い込まれて行った。

(……!?)

本流の他に小さな煙の流れがあり、一つの鏡の壁に消えて行ったように見えた。

立ち上がり、そこに向かって煙を吐いた。

(ここだ!!)

入って来た反対に出口があった。

そしてその扉の下には、黒曜石に足形のカットが施され、同色のゴムがはめられていた。