佐藤くんは甘くない


「……逃げるの?」

そうっと、私の背中を這うのような、冷たい声だった。


「や、だなぁ~逃げるって。何それ」


ドアに手を伸ばしたまま、私は調子よく笑って見せた。でも、ひまりちゃんはただただ静かに淡々とした口調で、私の後ろからしゃべりかけてくる。


「いつまで、佐藤くんと、そうしてるの?」

「……」

「あのね、こはるちゃん。私、ひとつ謝らなければいけないことがあるの」

「……」

「……それが何かって、こはるちゃんはもう、分かってるよね?」


聞きたくなかった。


どうしても、聞きたくなかった。


「私から言おうか?」

「……めて」

「ずっとずっと、私はこはるちゃんの気持ちに知らないふりしてた」

「や、めて」

「こはるちゃんがそうやって、私や佐藤くんに無理やり笑いかけてくれるたび、苦しかった」

「やめて!」

「あのね、本当はね、気付いてたの」

「やめて!!」

「───本当は、こはるちゃんが、佐藤くんを好き、だって」


視界が、ぐらりと揺れた。


その瞬間に、私は手首を掴まれ、無理やり振り向かされる。どん、とそのまま手首をドアに押し付けられ、至近距離でひまりちゃんが私を見上げていた。
どこまでも、見通すような澄みきった瞳で。


「ねえ、こはるちゃん」

「いやだ! やめて、お願い」

「聞いて」

「聞きたくないっ」

「私は、ずっと、こはるちゃんに憧れてた」