「佐藤くん!! 廊下は走っちゃいけませぇえええええん!!」
その声に、佐藤くんが大きく体を揺らして、振り返る。ぎょっと目を見開き、目の前の光景が信じられません、とでも言いたげな顔をしていた。
「佐藤くん!! ストップ! 止まれ! ノーラン! ノーストップ! ノーストップ!」
「それ走れって意味だから!!」
「ええいっ、さっさと止まれ!!」
「なんでついてくんだよ!!」
「佐藤くんが逃げるからでしょうが!」
「逃げてない!!」
「そんな全力疾走してる人に言われても説得力ねーよ!!」
向こうの速度が遅くなっているように感じた。
佐藤くんはどうやら疲れてきているらしい。よし、これならいける。追い付ける───そう思って、足の速度を速めたその時、佐藤くんはいきなり向きを変えた。えっ、と声が漏れるのもつかの間、佐藤くんはすぐ近くの教室の中に入り、ばん! と大きくドアを閉じた。
あっ、くっそ!
孤城するつもりだな!
私も追い付き、ドアに手をかける。がん!! と金属と金属が強く触れ合う音がして、私は目の前の曇りガラスに視線を向けた。どうやら、今の佐藤くんはかなり混乱しているようだ。鍵を閉めればいいものを、そこまで頭が回らないのか、佐藤くんは必死にドアを押さえつけている。
私は渾身の力を込めて、ドアを引く。が、佐藤くんも負けじとドアを押さえつける。がたがたっ! と激しい音とともに、攻防が繰り返され続ける。



