それを突かれると、私も返答に困る。
渋々、佐藤くんに従うことにした。わしゃわしゃと、優しい手つきで、私の髪の水滴を取り払う佐藤くん。流れる沈黙は決して痛いものではなくて、不思議と肩の力が抜けるようなものだった。
「なんかさ」
「はい?」
「こうしてると、俺がおにーちゃんっぽくない?」
「おにーちゃんって」
「普段、俺のこと弟扱いしてる仕返し」
くすくす笑いながら、佐藤くんが私の頭を優しく撫でる。
そんなこと初めてだったから、私はぎこちなく身を捩りながら、その恥ずかしさから逃れようとする。だって、同年代の男の子に撫でられるのって、恭ちゃんくらいだし。まして、佐藤君に撫でられるのは恥ずかしい。
「も~、やめてくださいよ」
なんて、軽口をたたいて。そうしたら、いつものように当たり障りない距離を保ってくれるだろう。
けれど、佐藤くんはぴたりと、手を止めて、本当に聞こえるか聞こえないかくらいの蚊の鳴くような小さな声で、言った。



