私の言葉は遮られる。視界いっぱいに、黒いブレザーが映り込む。
思わず離れようと、後ろに身を引いた私の後頭部に手を添えて、それをよしとしてはくれなかった。私は諦めて、後ろ下がろうと、力を入れていた腕の力を抜き、ゆっくりと下ろす。
「……なんだよ」
「なんだろうな」
「意味もなく抱き着かれるほど、私の身体は安くないよ」
「意味はなくはないけどなぁ」
当たり障りのない会話が紡がれる。
……なんでだろう。
恭ちゃんの腕の中は、当の本人がびっくりするほどに、安心する。すべての感情がごちゃ混ぜになって、もう解き様がないほど絡まった糸すら、するすると解かれていってしまいそうになる。
それが溜まらなく怖いのに、それなのに恭ちゃんの腕の中は安心する。なんて矛盾。こんなぐらぐら不安定な私を突き付けられたくはなかった。
「佐藤に会うまでには、その顔、どうにかしとけよ」
「……」
私はいったい、どんな顔をしていたのだろう。
聞けなかった。聞きたくもなかった。それを聞いたら、今までの自分のやってきたこと全て無駄になってしまうような気がしたから。



