佐藤くんは甘くない



馬鹿みたいに、心臓が飛び跳ねる。あれほど、脈を打っていた心臓が呆れるほどに早い鼓動をうち、それと比例するように頬が熱くなるのを感じた。


俺が小さく頷くと、朝比奈さんはほっと安堵の息を漏らし、それからやっぱり心がきゅうっとなるような笑みを浮かべるのだ。


……ああ、もう。

降参だ。きっと、俺は朝比奈さんには勝てない。


いろんなことにおいて、朝比奈さんは俺よりも一枚上手なのだ。本人はそれに気づいていないようだけれど。

「じゃあ、戻ろう?」


朝比奈さんはそういうと、くるりと踵を返して歩きはじめる。俺も慌てて、彼女の隣に立ち、どっちつかずな距離を保ちながら、歩く。目の前に広がる、ライトアップされた道筋を、二人何も言わず進む。


一瞬、彼女と手のひらが、ほんの少しだけ触れる。

……今なら、できるだろうか。


結局、できなかったあの作戦を、今なら。


内心バクバクいっている心臓をどうにか押さえて、顔に出ないようにくっと唇を固く結ぶ。とん、もう一度触れる。

今度は俺から。

それに朝比奈さんも気付いたのか、ぴくりと手の甲を震わせた。……逃げられるかな。そんな考えがよぎって、顔を顰める。でも、手が離れた気配はない。ちょん、ほんの触れるほどに小指と小指を触れ合わせる。最初はぎこちなく。


そして、指切りのようなつなぎ方から、だんだんと触れる手の熱さが増していく気がした。


これだけでも、本当に心臓が破裂しそうだった。隣を見ると、朝比奈さんも恥ずかしそうにくすくすと微笑んでみせる。つられて俺も笑ってしまう。